つながる京都
僕は最初、大阪で就職して東京に行って、京都に戻って来たんですけど、村田さんはずっと京都ですか?
僕も最初は大阪にいました。
りてん堂としては、ずっと京都ですよね。
今は昔に比べて、東京や大阪に行くにしても速いでしょう。ネットを使えば、世界中のどこの仕事でもできる。でも京都で仕事をしていると、あえて京都でしかできない、京都らしさみたいなものを感じることがある、それってなんだろうと。京都ってやっぱり良いと思いますか?
そうですね… 京都にいると、いろんな人がやって来ます。東京や北海道、さらには外国の人も、ふらっとやって来る。京都って、そういう何となく人が集まる場所だなという感覚はありますね。
みんな京都が好きやもんね。僕も一時期、東京に行こうかと悩んだんですけど、京都で仕事をしている方に「お金稼ぎに東京へ行くのは良いけど、拠点は京都に置いとき」みたいなことを言われて。
デザイナーとか、ちょっと売れたらみんな東京行きますよね。確かにギャラはいいし、仕事もやりやすいんですけど。
でも僕はやっぱり、京都が好きやし。京都って人と人の信頼で商いをするみたいな、独特の商習慣みたいなのがあるじゃないですか。東京や大阪の人はそれが理解できないと言うし、面倒くさいと感じる人もいると思うんですけど、僕はそれこそが良いなと思っているんですよ。
そうですね、 いい面も悪い面もありますけど。
村田さんとは20年ぐらいの付き合いになるんですけど、仕事絡んだり競合したりする訳ではないので、利害関係はないですよね。僕とこうしてても村田さんには、何の得もないんですけどね(笑
そういうのが、京都らしくて面白いですよね。
僕が久しぶりに大衡さんから連絡もらったのは、ちょうど会社を辞めるタイミングでした。たしかそのときは、カタログの見積もりを出して欲しいという話だったと思います。
それでついでに「辞めるんですけど」って言って、それで何をするのって話になって、そこからまたつながった。
そうやったね。それで「デザインのサロンみたいなのをやるから、話を聞かせてよ」に、つながるんだよね。
そういうゆるいつながりが、京都ならではなのかなって気がします。僕はそれが面白くていいなと思うんですよ。
〈最後に〉
村田さんは、僕と同じグラフィックデザイナーで、京都の人間としての親近感だけでなく、その真面目で飾らない人柄とストイックな仕事、半端のないこだわりなど、リスペクトできる数少ないデザイナーでもあります。
村田さんがデザイナーとして自ら活版印刷を手掛けるということにも驚きましたが、それを続けられていること、そして少しずつカタチに残るものを作っておられることに感動を覚えます。
素人でもデザインができると言われる時代、それでもデザイナーとして続けることと、小さくても少しでも前に進むことが大切なんだと改めて思いました。また何か面白いことができそうな気分になります。ありがとうございました。
(了)
撮影地:りてん堂
撮 影:松井学(Studio MacCa)
取材・文:二木繁美