002 村田良平氏|活版印刷 りてん堂店主

活版 ✕ グラフィックデザイン

大衡

デザインの話はつきないけど、せっかくだから活版の話も聞かせてください。

個人的にはこれまでも何回か聞いてるんだけど、村田さんは別に活版の職人になりたかった訳ではないですよね。それでも活版印刷を始めようと思ったのは、活版を使ってデザインをしたい、物を作りたいっていうのがあった。りてん堂としてやっている今、それは叶ってる?

村田

そうですね。僕がやりたいのは、活版印刷にデザインを加えることで、活版印刷自体の魅力をぐっと引き上げること。活版を使ったデザインというのは、僕がずっと持っているテーマなんです。活版印刷の価値をデザインをすることによって盛り上げていきたいんですよね。個人的には印刷方法としての活版印刷の価値は、今はもうないと思っているので。

大衡

活版印刷の価値もあるとは思うけど、昔とはちょっと変わってるよね。デジタルになってコピーの精度も上がって、人力で活字を集める方が、お金が掛かる時代になった。だから、活版印刷も本当は要らないんだよね。でも、要らないけど敢えてそれをやる良さというのもあると思う。

今はSNSやブログが発達していて、誰でも文章を書けるし、発表できる時代になった。ほかにもYouTubeや動画など、色々な方法で割と簡単に発信できる。しかもお金が掛からなくて合理的。だけど、その代わりに行間を読み取るとか、ニュアンスを感じるとか、間を空けるとか、離すとかいう感覚がなくなってきた気がする。

広告を見ても即物的なものが増えたよね。効果効能をアピールしたり、安いとか、甘いとか、そういうものすごくわかりやすい表現しかない。情感に訴えるような、Iichiko的な広告があまりない。時代なんだろうけど、広告が面白くないなと感じてしまう。だからこそ活版に、ちょっとノスタルジックなニュアンスを感じるというか。。文字のにじみ具合とか、書体のちょっと完璧じゃない感じが好きなんだけど、活版のそういう手作りに近いような世界観が、今はアートとして、また違う段階に来ている。

思い切り強く押して、ものすごくボコボコにへこませたり、横の小口を染めたり。これはもうシルクスクリーンなの?みたいな。そういうのも、ちょっと面白いなとは思っているんだけど。村田さんとしては、ああいうのは自分とは違うものだっていう認識ですよね。

村田

違うというか、ああいうのもアリだと思いますし、僕も好きだし、魅力的だなと思います。でも、あれだと面白くないなとも考えるんですよ。最初のインパクトがありすぎて、パッと見て「すごくボコッとしてるな」というので終わってしまう。それがもったいないと思います。

大衡

若いデザイナーで活版を使っている人の多くはは、ちょっと技巧に走っているところがあると思うんだよね。活版のできあがりのインパクトに興味を引かれてやるんだけど、デザインの方がそれに引っ張られ過ぎている気がしない?
色々とやりすぎだから、もう少し引いた方がいいと思う。紙をへこませれば良いというものではないよね。

村田

それを考えると、僕がやっていることも、本来とは真逆なのかなって思ったりしますけどね。活版を使って多色で表現するっていう。

大衡

金や銀の箔を押したり。あれはあれですごいんだけどね。

村田

技巧に走る人は、それを相手に渡したときに、自分が相手にどんなイメージを持たれるのかっていうのを、あんまり考えていないのかなというところはありますね。モノ自体がスゴイとなると、そこに気を取られてしまって、モノに込めたイメージが伝わりにくいのではないかと。

大衡

分からなくもないけど。やっている自分が一番楽しいからね。こういう派手な活版印刷の手法って、海外ではあまりないんじゃないかな。でも活版印刷って、もともと向こうから来ているものだよね。

村田

そうですね、海外でもなくはないと思うんですけど。向こうは活版印刷っていうと、ポストカードですね。海外では定期的にカードを送る文化があるので、たとえば誕生日とか。でも、海外でも活版で文字を組む人は減っていると思います。

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