002 村田良平氏|活版印刷 りてん堂店主

WEBと紙媒体の温度差

村田

以前つとめていた会社は、書籍や雑誌を多く手がける編集プロダクションでした。僕が入社した頃にはもうデジタル環境がメインだったんですけど、まだアナログと言うか、以前のノウハウみたいなものを大事にしていました。

そこは、デザイナーよりライターの人数の方が多くて、社長自身もライターで、社内のライターはみんな、文字の見せ方にもこだわりを持っていました。改行の位置までちゃんと意識して、文章を書いていましたね。

大衡

すばらしいね。

昔はデザイナーが、文字数や文字切れの位置まで指定をして、その通りに納めてくれるライターさんもいた。なので、そういうものだと思っていたんだけど、今はウェブサイトのデザインナーが、グラフィックや広告を一緒にやってしまうパターンが多くて。

見る側が何(メディア)を使っているかで、改行の位置も変わるし、PCとスマホでは見え方も変わってしまうので、字切れの位置もあまり気にしていないし、そこを決め込んでもあまり意味がないんだよね。

今の交通広告なんかを見ると、なんでこんな文字数で、こんな改行されているんだろうっていうのがすごく多くて、僕にしてみれば非常に気持ち悪いんですが、その背景にはそういうこともあるのかなと。

村田

そうですね。以前、ほとんどウェブの仕事しかしてないライターさんと紙媒体を作ったことがあったんですけど、なんていうんだろう、僕の感覚的にすごく変だったんですよ。

ウェブ専門のライターさんから受けた仕事だったんですけど、文体自体もしゃべり口調というか……文章自体がふわっとしていて、しっかりと組むと読みにくい。

ウェブではこれで良いのかも知れませんが、紙媒体の場合はウェブと違って、ある程度カチッとしていないと読みにくいんですよね。僕はどっちかって言うと、紙専門なので……。

字切れにしても、ウェブでやっている人は改行がすごく多いんです。文字数なんかも全然気にしていなくて。

大衡

まあ、そうやろうね、ウェブなら文字数が多くてページが伸びたところで、困らないからね。

村田

この部分はこれだけ文字があふれて、ここはこれだけ文字数が足りませんっていうのを、ラフを作って説明したんですが、どうしても文字数を合わせられない。

紙媒体の経験があるライターさんだったら、そういう風に説明すると「改行トルわ」とか「ここは文字数を減らして、これで切るわ」とかやってくれるんですけど、それができない。文章をたった2行削るということができないんですよ。

僕は「ここを削ったらいいやん」って思うんですけど。

大衡

分かるわ〜。でも、そういう人って自分でやりたがるんだよね。

僕も最初コピーを書く気なんてなかった。広告をやってる会社って、コピーライターがいるのが当たり前だったし。

京都の会社にいた時は、社内にライターがいたんだけど、デザイナー10人くらいに対して、ライターは1人。なので、原稿を上げるのが精一杯で、デザイナーの考えるような修正を頼んでも手が回らないんだよね。仕方がないから、自分で修正をやるようになって、そのうち結局「自分で書くわ」って、文章を書くようになっていった。今では、ほとんど自分で書くようになりましたね。まあ内容をまとめるぐらいの案件が多いんだけど。

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