002 村田良平氏|活版印刷 りてん堂店主

デザイナーと字詰め

村田

僕がデザイナーになったのは、デザイナーが文字組みをするようになって、文字組の質が悪くなったと言われていた頃です。デジタルから入っているデザイナーって、字詰めの経験がないから文字組みがすごく下手だし。Macのフォントも中途半端なデジタルフォントしかなくて、これはもうダメだみたいな話になっていましたね。

大衡

写植でもデジタルでも字詰めをしないと、文字の形によって、フォントがバラついて見えてしまう。見た目が良くないんだよね。

写植の段階で字詰め指定をすると、版下にそのままパッと貼れるんだけど、職人さんの手間が掛かる分の値段が高くなる。字詰め指定のない方が早くて安いから、僕らはベタ打ちで指定して、自分で詰めろって言われていた。

村田

なるほど。その頃のデザイナーは、みんな字詰めを経験していたんですね。

大衡

そう。写植をひと文字ずつカッターで切って、薄くめくって字間を詰めて貼るようなことをしていたから、写植を経験しているデザイナーは、否応なしにみんな字詰めを覚えていた。Macだとベタ打ちしてから、カーニングで字間を詰めるんだけど、今はそれもあまりしないよね。

村田

そうですね。僕はDTP世代なのですが、ありがたいことに割と写植にふれる機会がありました。出版社で雑誌の編集・デザインの仕事をしていたときも、表紙を担当していた装丁家の先生が、デジタルフォントではなく写植の文字を使っていたんです。そして、その写植の字間を、自分で足したり削ったりしていました。その字詰めがすごくキレイで。版下からそれをマネして、字詰めの感覚を覚えたりしましたね。

大衡

昔は写植の書体も限られていたから、同じ文字をずっと使っていると飽きてきて、みんな自分でちょっとさわったりしていた。書体を切って寸足らずにしたり、受け丸を大きく細い丸に変えてみたり。たぶんその装丁家の先生も、それを知っていたから普通にやっていたんだろうね。

デジタルフォントでもできないことはないんだけど、いったんアウトライン化してからとなると、面倒くさくてみんなやらない。

手書きベースだと、受け点を切ったり、ロットリングでちょっと書き足したりと簡単にできる。デジタルになって、逆に時間がかかってしまう事っていうのもあるよね。

村田

手書きだとササッとできるのに、デジタルだとなぜかバランスが保てなくなりますよね、そして何より面倒くさい。

大衡

あるある。だから、みんな字詰めをしない。

DTPの最初の頃は、DTP用のソフトってクォークが主流だったじゃない。多分、あれは印刷会社さんがデータの処理をしやすかったからだと思うんだけど。

でも、クォークって字詰めができなかったでしょ。一応できるんだけど、視覚的じゃなくて、数値で指定して詰めなければいけなかったから、すごく面倒くさかった。だから僕はクォークには手を出さなかった。「イーッ」ってなるから。

村田

僕がクォークで大衡さんのデータを触っていた時は、ある程度、文字詰めのパターンを記憶していました。ひらがなの「い」と「。」の間はこれくらい字間を詰めるっていうのを、たぶん数値で覚えていたと思います。それを一つひとつ手で入力していたから、すごく時間がかかったんです。

大衡

それは時間が掛かるよね〜。僕が自分で字詰めする時は、どうしても改行で字が回り込んでしまうところは、自分でコピーを変えてしまう。

デザイナーがレイアウトしながらコピーを勝手に変えると「どこを触ったか分からへん!」って、後でライターさんに怒られるんだけど、字切れを整えたかったんだよね。

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