写植とDTP
僕がデザインの仕事をはじめた時は、ちょうどDTPへの移行期で、ほとんどMac(Macintosh)でやってましたね。写植の仕事は、もうほとんどありませんでした。
そのころは、ほぼ100パーセントMacになっていましたよね。
でもフォントはまだモリサワしかなくて、書体も少なかった。英語フォントも少なかったし、仮名フォントもあまりなかった。しかも縦組みで、インデザイン(InDesign)もまだなかったしね。あの頃、ソフトは何を使ってました?イラストレーター(Illustrator)かな。
いや、クォーク(QuarkXPress)ですね
クォーク!僕はイラストレーターを使っていたから、あの時はそれを全部クォークのデータに直していたのかな。イラストレーターのデータを、PDFに変換するのも面倒くさい時代でしたよね。
あのページ数なら、たぶんクォークを使っていましたね。あのころは、Macのスペックがまだ貧弱だったので、ページ数が多いものをイラストレーターで組んだら、データが重くて動かなかったと思います。
画像やデータの処理も大変だったよね。クォークだと文字組みや文字詰めが、ものすごく大変だったでしょう。よくやったよね〜。
そうですね。時間もなかったし、急かされて「もうちょっと待ってください」って言いながらやってました。
僕はテーマの所だけ見本のデザインを幾つか作って、渡していただけでしたが、村田さんは全部ひとりでやってたんですか?
ひとりだったかな……。写真のスキャンなんかは、誰かにお願いしたかも知れないですね。あの頃は写真もデータじゃなくてポジなんですよ。スキャンして、アタリとって……。
たしか印刷会社でスキャニングを先にしたんじゃなかったかな。時間がないから、先に画像の分解だけしていた気がする。ああ、懐かしいなぁ。
最後の版下・写植世代
村田さんと僕って、年はいくつ違うんでしたっけ。
僕はいま46歳ですね。
僕と6つ違うのか〜。中1と小1くらい?(笑
でもそのくらいって、たぶんMacと写植の境目くらいだよね。ちょうど入れ替わる時期くらい。写植最後の世代だよね。
僕は、実際に写植を発注したことがないんですよ。
でき上がった写植を紙焼きして、もう1回焼いて、貼ったりしていました。
僕は毎日写植を頼んでいたから、写植指定はめちゃくちゃ得意だったよ。字送りとか、歯数とかいうのはわかる?
それは分かります。
字送りって、簡単に言うと写植で文字のアキを指定することなんだけど、こういうのは今の若いデザイナーには分からないかも知れないね。当時、僕がいた会社は大阪で1番か2番くらいに、写植の発注量が多いと言われていて、わざわざ連絡をしなくても、毎日数回写植の注文書(指定書)を取りに来てくれてたんだよね。
大阪にはモリサワと写研の大手2社、規模の大きな写植屋さんがあって、それぞれ僕の会社(当時勤めていたデザイン事務所)専属の営業さんがいて、1日に最低でも4回ずつ、2社あるから最低でも8回は写植の注文を取りに来てくれてたなぁ。写植の指定書(注文書)を社内の箱に入れておけば、それを回収して2時間後には仕上げてまた届けてくれる。急ぎのときは、直接の電話かFAXで発注。メールがまだなかったからね。そしたら、急ぎの分は優先して届けてくれるんだよね。
毎日、写植の量がすごかったな。
すごいですね、今では考えられない。
写植からMacになって、すごく仕事が楽になると思ったんだけど、結局デザイナーの仕事が増えただけだった。写植がなくなったからデザイナーが文字を打って、カンプライターが居ないから絵も自分で描かなくちゃいけない。写真だってデジカメがあるから、ラフくらいなら自分で撮るようになった。村田さんはデザイナーが本来やらなくても良かった仕事が、段々と増えていった世代だよね。