001 杉木源三氏|スペースデザイナー

デザイナーの個性について

大衡

僕は、デザイナーはアーティストでは無いので、商業デザインということは、企業なりクライアントの要望に応えて、しかもそれらが独立して素晴らしく良いものであるべきと思っていたんですが、最近は僕自身「(君の)デザインを見たら、全部お前になってる」と言われることがありまして、杉木さんの仕事を見てても、このお店は杉木さんがしはったんやろうなって分かるんですよ。

それはさっき仰った作風では無いんですが、おそらく全て違う条件のなか、予算も含めてオーナーの求めるものに応えてるんですが、それでもなお「杉木デザイン」になってるんですよね。

杉木

それはしょうがないことなんやけど、同じ人間がやってるんだし。でもこの年になって思うことは、やっぱり自分がやるべき仕事というのは、自分の作品を作るんじゃなくて、結局お金を出す人の目的のためだと思う。

例えば、この店で金儲けしたいとか、世間に注目される店を持ちたいとか、優先順位は色々あるけれど、それを仕事とし受ける時はオーナーに話を聞いて、この人はこういうものを求めてるけど、そこに来る客層は今の時代とズレてて、このオーナーの言うままに作るとコケるやろなぁということもある。だからそこに来る客層にあったものをつくらなあかんし、そのことをオーナーにも説明・説得してやっていく訳で、自分の作品を人の金で作ってる訳じゃない。

「あれは杉木さんがデザインされたんですか?」みたいに言って欲しい訳じゃないし、オーナーさんやその店に来るお客さんが十分に満足してるのなら、それは成功だと思う。

大衡

杉木さんは住宅もデザインされますが、住宅はある程度長く使うというか、ずっと住むじゃないですか。数十年というスパンになると思うんですけど。

杉木

住宅と商業物件があって、商業物件は儲かったら出したお金も満足度も償却できるけど、住宅はお金を出しっぱなしで、嫌な空間を作られてしまったら、それはもう気持ちを償却できるどころか、まだこんなところに住んでなあかんのかという気持ちになるよね。

大衡

コンセントの位置ひとつでも嫌になる時がありますもんね。

杉木

そう。それがあるから、住宅をデザインする場合は家族全員、住む人のことをすべて聞いて、それに合うもので満足して貰わないと。「今、こんな間接照明が流行ってるんで、これが良いですよ」なんて言っても、その間接照明に意味があるのか?とか考えなあかん。

大衡

普通の人は、だいたい最初に住宅メーカーにアクセスするじゃないですか。建築家やデザイナーに直接コンタクトを取る人って少ないと思うんですが、それでも頼む人ってのは、何かの縁があって紹介されるんですか。

杉木

例えば、自宅をデザインさせてもらった時に、そのオーナーが色んな人を家に呼んで、来た人が「ええなぁ」と言ってくれて、そして多くの人が「デザイナーを紹介して欲しい」ということになる。

けれど、それぞれに違うデザインをしないと「あいつんとこと一緒やん」ってなると不味いから実は難しい。とてもありがたい事なんやけど(笑

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